【コラム】ペプシマンの持ち方ラボ 定期連載第一回
[寄稿者:PepsiMan_ax]
こんにちは。
この度、Gear MetriXへコラムを寄稿することとなりました、PepsiMan_axと申します。
プロシーンの考察を通して、皆様のデバイスライフをより豊かにできるような記事を心がけて行きますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
今回は初回ということで、少し大きな括りの題材。プロ選手と一般層の間に起きている、奇妙な差についてお話しいたします。
無駄とは、寄り道とは
人の興味・好奇心とは非常に恐ろしく、時に身を滅します。かくいう私も、ほぼ好奇心のみで3年にわたり研究を行い、その中で何度も自分の命を意識しました。なりふり構わず一つのことを考え続けられるとは幸せなことですが、そればかり続くのも考えようです。
当サイトへ辿りつく読者の皆さまであれば、一度は同じような経験をしているのではないでしょうか?
例えば、デバイスを買いすぎて、その月の生活が苦しくなったとか。収納場所が埋まってしまい、寝るスペースを削ったとか。
これらは傍から見れば無駄な行為ですが、無駄を積み重ねることで人としての深みが増し、寄り道を繰り返すことで様々な知恵がつきます。
研究とはその最たる例でして、イグノーベル賞を見れば、無駄の重要性や寄り道の大切さが分かるかと思います。
エンドゲームデバイスとは、その無駄・寄り道を積み重ねた先にあるものと考えています。
デスクの脇で山積みになったマウスパッド、机を覆わんばかりのマウス、最も置き場所に困る割に性能差を感じづらいキーボード。
これらを乗り越えることでようやく自分の趣味嗜好を理解し、スタートラインに立つことができます。
マウスの持ち方も同様です。少なくとも4カテゴリー、つまみ、つかみ、かぶせ、リバースを試し、それぞれの最適だと思う形を記憶。
更にデバイスや設定の組み合わせを試行し、たくさんの可能性を考慮することで、ようやく本当に自分に合った状態を判断できるようになります。
本連載を通して知ってほしいこと
持ち方は生き物です。
一つとして全く同じ瞬間はなく、一つとして全く同じ持ち方はありません。
手の大きさ、指の特性はもちろん、その日の関節の曲がり具合、皮の状態、爪の長さに至るまでが構成要素に含まれ、再現性を高めることは困難を極めます。
逆説的に考えれば、プロはそれらを乗り越え、安定化させた存在と言えます。
私がプロの持ち方にこだわるのは、その考えが根底にあるからです。
近頃、デバイスにこだわりのある方が増えたように思います。
無駄の重要性が浸透し始めたのか、はたまたレビュワーの影響か定かではありませんが、デバイスを用いた投稿には数字がつくようになり、確実に同志を探しやすくなっています。
しかしマウスの持ち方はまだまだその域に達しておらず、ようやっとdonk選手(CS2プロ)の持ち方がうっすら認知された程度です。
私はこの現状を嘆かわしく思い、同時に力不足を痛感します。
取り沙汰されるのは目に見える数値を誇ったキーボードや、麗しい絵が描かれたマウスパッドばかり。
上ばかり見ていて、文字通り手元がおろそかになっているプレイヤーが非常に多い。
いくら考えてもお金はかからないですし、積極的に考え、実証すれば、おのずとスキルが磨かれて行くはずです。
また、過程で気づく考えることの楽しさ、気づきを得ることで出る脳汁は、なにものにも代えがたい貴重な経験であり、全ての人へ平等に与えられた幸せなのです。
その流れが見られないのは、私含む考察を行う人間が、その姿勢を積極的に発信しないことにあると思います。
ですので本連載では、プロシーンの研究を通して、考察時の手の内や、躓いたときの向き合い方を、皆さまに少しでもお届けできればと思います。
我々とプロの間に発生するデバイスの溝
さて、今回考察するのは一般層とプロのデバイス乖離について。
2024年、我々一般消費者間で起きた流行はガラスマウスパッドであり、超軽量マウスであり、高精度ラピッドトリガー搭載キーボードでした。
2025年に入っても、ガラスパッドの勢いは衰えることなく、最近では大手メーカーのLGGがリリースを発表。
VALORANTをカジュアルに楽しむ方でも、ガラスパッド・軽量マウス・高精度キーボードをメインに据え、理論値を求めるムーヴメントをSNSでよく目にしました。
しかしプロシーンではARTISAN、LGGの二強時代に突入。
champions Seoulを制したEDGは5人中4人がARTISAN製品を使用し、大会全体を通しても、赤や橙のカラフルな装飾が施された机をよく目にしました。
キーボードもWooting 60 HEが体感で8割を占め、マウスに関してはLogicool G PRO X Superlightほぼ一強状態。
時代に取り残されているようにも見えるメタが発生しており、明確に差が存在します。
しかし、視点を変えれば、この現状は面白く捉えることもできます。
少なくとも2020年以前は「プロが高性能とされるモデルを使用し、それを見た一般消費者が購入する」という図式だったと記憶しています。
これが、2023年あたりを境に、一般消費者が高性能とされるモデルを使用,感想をSNSにアップし、それを聞いたプロが実践する。
という図式に。
つまり、このムーヴメントにおいては、プロとアマチュアの間で逆転現象が起きたのです。
リーグ制の影と、界隈の隆盛
こうなった理由については複数存在しますが、大きく分けると二つの原因に収束すると考えています。
一つはリーグの発足。
2022年までの大会形式であれば、国際大会までの試合数が少なく、またSplitごとの期間も長いため試行期間が確保しやすい傾向にありました。
実際に、VAXEEやWootingがシェアを伸ばし、一般認知度を上げたのはこのくらいの期間であったと記憶しています。
しかし、23年のリーグでは1つのSplitで総当たりを行い、多い時には1週間に2試合をこなさなければなりません。
24年は改善がなされましたが、それでも過密スケジュールは改善されず、デバイスはおろか設定さえも変えづらい状況が続きました。
更にここへリリース頻度の向上という追い打ちがかけられます。
一般層ですら情報を追うだけで大変なので、プロともなれば浦島太郎状態。
デバイス相対性理論とはこのことです。
二つ目に、デバイスブームの到来。
22年後半から23年にかけて、デバイスの講評を主軸としたコンテンツが主にYouTube上で流行。
シュータープレイヤーはデバイスの重要性、そしてデバイスを集める楽しさを覚え、市場の拡大が起きました。
ブームが起きれば、新しく発売されるものの注目度は上がり、たくさんの消費者が手に取ることで、試行回数が上昇します。
基本的に、メタというのは試行回数を積み重ねただけ変化します。
先述のデバイスブームとリーグ制の影響によって、プロと一般層の試行回数が逆転していたとしたら、23年のメタとされていたコントロールマウスパッド環境が、24年のプロシーンで起きていたのも納得できるはずです。
さて、ここまでは一般的な考察…
ここからが激アツで重要な話なんです。
世は大ハリ基軸時代
ここに加えて、第三の要素、つまり持ち方の観点を加えます。
逆転現象が起きた23年、ここで起きたもう一つの重大な出来事を覚えているでしょうか。
そうです、史上初の二連覇をFNCが成し遂げました。
これを皮切りに、手に発生するハリを重視した持ち方が環境を蹂躙します。
例を挙げればLeo選手,Less選手,Demon1選手,Jinggg選手などで、23年を代表する選手のほとんどが、ハリを主軸に据えた構築を行っています。
24年に移り変わっても、ハリ環境は変わりません。
- Masters Madridを制したSENは、5人中3人(Zekken選手・Zellsis選手・TenZ選手)がハリ主軸。
- Masters Shanghaiを制したGen.Gは、5人中2人(Munchkin選手・Karon選手)がハリ主軸。
- champions Seoulを制したEDGは、5人中3人(ZmjjKK選手・nobody選手・s1mon選手)がハリ主軸。
優勝者の実に半分が、ハリを基調とした持ち方になっています。
ハリ主軸の持ち方は、基本的にマウスパッドの影響を色濃く受けます。
持ち方単体で操作能力が完結しているため、その特性に合うマウスパッド以外は、あまりパフォーマンスを発揮できません。
そのため、ガラスパッドを使うためには、特性を変更しなければならないのです。
特性の変更には時間を要し、完了したとて強くなれる保証はありません。
多分ここまで読んでいる方は許容してくれると思うので、過激なことを言いますが、そもそもVALORANTとガラスパッドの相性は最悪です。
VALORANTにおいて重要なのは、その場その場で適切に止まれる能力であり、移動の速さやトラッキング能力ではありません。
というか、実際にトラッキングが上手な選手はほぼ布パッドを使用しています。
※例:yay選手・Karon選手・GON選手・benjyfishy選手
また、マウスにも同じことが言えます。
G PRO X SuperlightとViper V3 Proは、総合的に見て本当に神がかっています。
ハリを発生させても違和感の少ない形状、どう持っても無難に感じることのできるセンサー、ホームポジション調整を妨げない重心バランス。
オールラウンダーと器用貧乏は紙一重ですが、この二つはどちらも圧倒的に前者です。
穴のあいたマウスよりも、側面が絞られたマウスよりも、ケツの大きなマウスよりも、圧倒的に自分に応えてくれます。
まとめると、
プロシーンで確立されたメタと一般層の流行が大きく乖離していた
という話ですね。
おわりに
さて、2025 KICK//OFFは波乱も波乱。
FNCがまさかの黒星スタート、FURが即席チームながら勝利、優勝候補T1を追い詰めるBMEと、シーズン初めは毎度ひっくり返るほどの衝撃を受けます。
ハリ環境は継続するのか、はたまた新たなメタが発生するのか、今年も目が離せません。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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関連動画
2004年生まれ、関西出身。18歳ごろから、マウスの持ち方を考察した動画をYouTubeに投稿している。