Logicool G740TH 定量レビュー

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Logicool G740TH ゲーミングマウスパッドをレビューする。

Logicool

G740TH

このレビューを読んで、あなたがFPSゲームなどにおいて絶対的な勝利を目指すならこのG740THは買うべきではない。

G740THは、勝利に強く拘らず、Logicoolという世界一のゲーミングデバイスメーカーのブランド名を冠したゲーミングマウスパッドが、ゲーミンググレードや競技シーンに求められる最低限の性能を満たしていなくてもそれで良くて、他社のゲーミングマウスパッドよりも安い価格で、いつでもどこでもほしいときに同じ消耗品を買えるポイントがとても合理的だと感じるような人に向いている。

販売価格 3,800円~

総合評価(AからEの5段階評価)

D (2023/9/8)

滑り出しのタイプ

並み に分類

滑走速度のタイプ

バランスタイプ に分類

スペック

表面熱処理繊維・クロス素材
ベースラバー
寸法460×400×5mm
ステッチの有無なし

長所

・価格が安く、在庫が潤沢なので、いつでもどこでも入手しやすい。

・湿度変化によって、初動と滑走速度と標準偏差の違いが起きにくく、湿度変化に強い。

注意点

・右下のロゴはフィルム転写プリントのため、マウスパッド本来の風合いと異なり、段差がある。

・ステッチ処理がないため、使用頻度・環境によって、表面とスポンジが剥離する可能性がある。

・製造品質に問題を抱えている個体が流通している可能性があるので品質確認すべき。

短所

・マウスの移動方向に追従してマウスパッドの位置がずれる防滑性が乏しいベース。

・硬度のばらつきが著しく、平滑性に欠ける。

製品・メーカーについて

Logicool (海外市場ではLogitech) G740THは、2022年9月に発売された新作のマウスパッドである。同社のベストセラーゲーミングマウスパッドであるG640sの表面をそのままに、ベースの厚さを3mmから5mmに分厚くしたモデルのゲーミングマウスパッドだと思えば分かりやすい。

画像1:G740THの表面

バリエーションと販売価格

G740TH以外のLogicoolのゲーミングマウスパッドのバリエーションは以下の通り。

  • G240f(クロス・340×280×1mm)
  • G440f(ポリエチレン・340×280×1mm)
  • G640s(クロス・460×400×3mm)
  • G840(クロス・900×400×3mm)

2023年9月時点でG740TH系統の厚さ5mmの純粋なサイズやバリエーション違いはない。

製品仕様・スペック

表面は熱処理繊維のクロス素材。サイズは460×400×5mmのみ。ステッチ処理なし。ベースの滑り止めは防滑パターンが施されているラバー素材。

梱包状態・巻き癖

画像2:G740THの外装

G740THの外装は四角柱の箱になっており、本体はロールされて梱包されている。

画像3:G740THベース側方

外装から引き抜いた直後は若干巻き癖は残るが、G740TH本体の自重であれば時間経過でフラットな状態になるだろう。

デザイン

画像4:G740TH俯瞰

カラーはシンプルなブラック1色のみ。カラーやプリントのバリエーションを用意しないことで、静動摩擦力や標準偏差の違いを考慮しなくて済むだろう。

マウスパッド右下にはフィルム転写プリントのロゴが印刷されており、質感はマウスパッド本来の風合いと異なり、段差もあるので注意。

サイズ

G740THのサイズは460×400×5mmで、長方形のラージサイズとなっている。

ステッチの有無・パイピングの質

画像5:G740TH表面側方

G740THはステッチやパイピングの類は画像の通り、施されていない。故に使用頻度・環境などによっては、表面と中間層が剥離する可能性が否めない。

ベース

画像6:G740THベース俯瞰
画像7:G740THベース拡大

G740THのベースは防滑パターンが施されたラバー素材が採用されている。筆者の環境(Flexispotメラミン化粧板ブラック天板・IKEAメラミン仕上げ天板トロッテン・無印良品デスク天板オーク材・無印良品パイン材テーブル)では、マウスの移動方向に追従してマウスパッドが初期位置からずれるため、分厚くて重たい割には滑り止めの性能は良いものとは言い難い。

G740THを設置する天板の材質や表面処理によって、滑り止めの効き具合が左右されるのでゲーミングマウスパッドに求められる滑り止めとしては破綻している。G740THを安定して使用するために筆者は、HID-Labs製ガラスマウスパッド「GLASS PAD RINK」やNINJA RATMAT製「メタルマウスパッド各種」に付属してくる滑り止めシートをG740THの下に敷くことで位置がずれる問題を解決した。

安定して使用するためには、脆弱な防滑性に手を打つ必要があり、滑り止めシートなどをあらかじめ準備しておくことを強くおすすめする。

表面の質感

画像8:マウスパッド表面組織比較倍率2倍
画像9:マウスパッド表面組織比較倍率4倍

G740THの滑走面には熱処理が施されたクロス素材が採用されている。強い光を当てると表面は艶が出て、手触りはしっとりとした質感である。編み目が細かく、繊維のほとんどが寝ているので凹凸が少ない。

ビデオ顕微鏡で撮影したG740THの表面組織の特徴として、他の比較の3種よりも撚糸同士の遊間が少なくぎっちり詰まっているように見える。編み方のパターンや密度はそれぞれ違うが、糸の細さは4種類のマウスパッドすべてが似通っており画像では甲乙つけ難い。

各種測定装置の説明と測定方法について

以降の硬度、初動の評価、スティックスリップ、滑走速度、湿度による滑りの変化、センサー相性などの測定方法や評価に関する詳細な事柄は、別途下記専用ページを参照していただきたい。

ゲーミングマウスパッドの評価について
ゲーミングマウスパッドの評価について

硬度

G740THの硬度は表面側は54、ベース側は48であった。これは我々がデータをとったマウスパッドの中で、リファレンスマウスパッドとして定める標準的な硬さ50を指し示したZOWIE G-SR-SE SERIESよりも前者はやや硬く、後者はやや柔らかい。

マウスパッドの硬度のばらつきは、SからEの6段階評価の中で表面側はD評価(分散1.4以上1.8未満)とやや不十分で、ベース側はE評価(分散1.8以上)と不十分である。

G740TH硬度中央値硬度分散評価
表面硬度54D
ベース硬度48E
表1:G740TH硬度(GS-743G タイプE2で測定)
G-SR-SE硬度中央値硬度分散評価
表面硬度50A
ベース硬度50A
表2:ZOWIE G-SR-SE SERIES硬度(GS-743G タイプE2で測定)

G740THの硬度は

  • 表面硬度54であり、同社製品G640sの表面硬度55よりも1硬いが誤差の範囲内でほぼ変わらない。
  • ベース硬度48は、同社製品G640sのベース硬度54よりも柔らかい。
  • 表面とベース共に著しいばらつきが生じている。G740THの中間層は非常に分厚い発泡体で組織されており、無数のボイドの影響で平滑性に欠けている。
画像10:G740THベース側方(ボイド)

G740THの初動の評価

G740THの静止状態から動き始めの初動は横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)共に並みである。横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)の差は小さい。

滑走中から切り返した後の初動は横方向(X軸方向)はとても重たくなり、縦方向(Y軸方向)は重たい。そして、横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)の差はとても小さい。

最大静摩擦力とは

マウスパッドの最大静摩擦力は、①静止した状態から動き出したときの初動の最大静摩擦力と②滑走中から反対方向に切り返したときの最大静摩擦力に違いが生まれるものと、そうでないものが存在することが分かっている。

マウスパッドの初動の評価は、最大静摩擦力だけでは説明することができない。最大静摩擦力に加え、スティックスリップの大小、そのスパン、マウスパッドの硬度などが関係し合っていると考えている。

G740TH(湿度60%)横方向(X軸方向)
最大静摩擦力
縦方向(Y軸方向)
最大静摩擦力
Y軸-X軸の
最大静摩擦力の差
①静止状態から動き始め93.845 gf100.710 gf6.865 gf
②滑走中から切り返し後124.935 gf121.140 gf-3.795 gf
①-②の差-31.090 gf-20.430 gf
表3:G740TH(湿度60%)静止状態から動き始めの初動と切り返し後の初動とその差

G740THの①静止状態から動き始めの最大静摩擦力は

  • 横方向(X軸方向)は93.845 gfであり、初動の重さ・軽さはデータベース上、並みである。
  • 縦方向(Y軸方向)は100.710 gfであり、初動の重さ・軽さはデータベース上、並みである。
  • 横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)の差は、縦方向(Y軸方向)優勢の6.865 gfで、その値は小さいが考慮した方が良い差である。

G740THの②滑走中から切り返した後の最大静摩擦力は

  • 横方向(X軸方向)は124.935 gfであり、①より31.090 gf重たくなる。そして、初動の重さ・軽さはデータベース上、とても重たい。
  • 縦方向(Y軸方向)は121.140 gfであり、①より20.430 gf重たくなる。そして、初動の重さ・軽さはデータベース上、重たい。
  • 横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)の差は、横方向(X軸方向)優勢の3.795 gfであり、その値は小さい。

①静止状態から動き始めよりも②滑走中から切り返し後のほうが、横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)共に最大静摩擦力が順当に大きくなる点はシンプルで分かりやすいが、①よりも最大静摩擦力が急激に大きくなる点は考慮しなければいけない。

最大静摩擦力の数値がよく似たマウスパッド

本製品とよく似た、静止状態から動き始めの最大静摩擦力を示すマウスパッドを以下に挙げるが、滑走中から切り返した後の最大静摩擦力や、硬度やスティックスリップ、標準偏差、厚み、反発弾性については全く考慮していないので、実際のフィーリングと異なる点に留意していただきたい。

  • MM350 CHAMPION SERIES
  • QcK HEAVY

スティックスリップ

スティックスリップとは

静止状態から動き出し始めた時に生じた静摩擦から動摩擦が安定するまでの間に発生する、滑りと固着とが交互に起きる間欠運動である。300種類以上のマウスパッドを測定してきた経験上、ほとんどのマウスパッドにスティックスリップ現象を確認している。

スティックスリップが発生しているからといって、設計品質や製造品質に問題があるという訳ではないことに強く留意していただきたい。

スティックスリップは、実際のフィーリングで表現するとマウスパッドのキレやもたつきに相当し、発生していないか、そのスパンが非常に短いほどキレがよいマウスパッドになる。逆にスパンが長かったり、振幅が大きいほど初動にキレがない、ぬるっとしたマウスパッドになる。

あくまで仮説だが、キレがあるマウスパッドはAPEX LEGENDSのような非常に高い頻度でエイム操作を求められたり、トラッキングエイムを主するゲームではもたつきを感じにくく、疲れにくいので、そのようなマウスパッドが合っているかもしれない。逆にVALORANTのようなプリエイムやフリックエイムを主とし、高い頻度でエイム操作をすることが稀なゲームタイトルをメインでプレイする場合は、スティックスリップが精密なエイムを補助するのではないかと考えている。

また、硬度が柔らかくなるほど、不規則かつ長いスパンでスティックスリップが発生しやすく、硬度が硬いほど、スティックスリップが短くなる傾向にあるが、もちろんイレギュラーも存在する。

G740THは、最初に最大静摩擦力を迎えてから動摩擦力が安定するまでの間にスティックスリップ現象が発生している。時間経過と共にそれが徐々に解放されていく極めて典型的な波形を示している。

規則的かつ典型的なスティックスリップが発生しているので、G740THの初動に鋭いキレは全くない。

スティックスリップ現象が発生している時間は①静止状態から動き始めと②滑走中から切り返し後とで以下の通りである。

条件横方向(X軸方向)
スティックスリップ発生時間
縦方向(Y軸方向)
スティックスリップ発生時間
①静止状態から動き始め約0.70秒約0.62秒
②滑走中から切り返し後約0.78秒約0.83秒
表4:XY軸別スティックスリップ発生時間
画像11:G740TH X軸初動のスティックスリップ
画像12:G740TH Y軸初動のスティックスリップ
画像13:G740TH X軸切り返し後のスティックスリップ
画像14:G740TH Y軸切り返し後のスティックスリップ

滑走速度

G740THの滑りは、並み程度に滑るバランスタイプに分類できるが、横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)とで標準偏差の影響で滑りが異なり、考慮しなければいけない差がある。

動摩擦力とは

物体が動き出した後の摩擦力のことで、動いている物体にかかる摩擦力。つまり初動とスティックスリップを超えたあとに人が感じるマウスパッドの「滑走速度」と表現されているものである。

ゲーミングマウスパッドの動摩擦力は、①静止状態から動き始めと②滑走中から切り返し後とで明らかな違いは認められず、非常によく似た数値と波形を示すことが分かっている。

標準偏差とは

標準偏差とは、あるデータが平均値からどの程度外れているかを示す指標である。この場合、動摩擦力のデータが平均値周辺でどの程度ばらついているかが分かる。これは平均動摩擦力が同じ値を示していても、仮に標準偏差が1.0と2.0のふたつが出た場合、前者のほうが滑り易く、後者のほうが滑りにくいものだということが分かる指標になる。

また、一概に標準偏差が小さいほど良いものであったり、大きいほど悪いものだという訳では全くない点に留意いただきたい。

標準偏差は、触覚でいう「マウスパッドの表面の滑らかさや粗さ」や、マウスパッド本体の「柔らかい・硬い」など複合的な要素によって左右されると考えている。

新東科学株式会社 摩擦摩耗試験機の選び方
新東科学株式会社 摩擦摩耗試験機の選び方

マウスパッドの滑走速度は動摩擦力だけでは説明ができない。動摩擦力と標準偏差と硬度などの要素が関係し合っていると考えている。

動摩擦力を測定して得られた生データに、それに対応する標準偏差を重みとして加えた③加重平均動摩擦力と、標準偏差の結果は表の通りである。

G740TH(湿度60%)横方向(X軸方向)縦方向(Y軸方向)Y軸-X軸の差
③加重平均動摩擦力27.041 gf29.863 gf2.822 gf
標準偏差1.5162.253
表5:G740TH(湿度60%)加重平均動摩擦力と標準偏差

G740THの③加重平均動摩擦力は

  • 横方向(X軸方向)は27.041 gfで、25.000 gfから29.999 gfの範囲内に収まっているので、バランスタイプに分類されるが、標準偏差が1.516であるため、フィーリングは弱くコントロール寄りになる。
  • 縦方向(Y軸方向)は29.863 gfで、25.000 gfから29.999 gfの範囲内に収まっているので、バランスタイプに分類されるが、標準偏差が2.253であるため、フィーリングはやや強くコントロール寄りになる。
  • 横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)の差は2.822 gfと小さい。

動摩擦力の波形について

画像15:G740TH X軸動摩擦力(切り返し前)波形
画像16:G740TH Y軸動摩擦力(切り返し前)波形
画像17:G740TH X軸動摩擦力(切り返し後)波形
画像18:G740TH Y軸動摩擦力(切り返し後)波形

切り返し前と後に関わらず、G740THの横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)の動摩擦力の波形は、マクロでは全体的に大きく逸脱した波形は認められず、ミクロでは横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)共に、目立つ振幅が分かるので、平均動摩擦力に対するデータのばらつきの様子が見てとれる。

加重平均動摩擦力がよく似たマウスパッド

本製品とよく似た③加重平均動摩擦力を示すマウスパッドを以下に挙げるが、硬度や標準偏差、厚み、反発弾性については全く考慮していないので、実際のフィーリングと異なる可能性がある点に留意していただきたい。

  • FOCUS 3
  • QcK HEAVY

湿度による滑りの変化

G740THの湿度ごとの初動と滑走速度の変化について評価する前に、湿度50%と60%でそれぞれ測定した理由について、気になる場合は以下のリンクを参照願いたい。

ゲーミングマウスパッドの評価について
ゲーミングマウスパッドの評価について

なお、湿度50%のデータはすべて暫定値であり、今後加筆修正する際にデータや評価が変わることが十分あり得るため、ご理解いただきたい。

湿度50%と60%の横方向(X軸方向)の初動の違い

G740THの横方向(X軸方向)の最大静摩擦力は、湿度が変化しても数値はほとんど変化しない。

  • ①静止状態から動き始めの最大静摩擦力は、湿度50%よりも湿度60%のほうが滑り出しが1.675 gf軽いが、ほとんど考慮しなくてよいほどの差である。
  • ②滑走中から切り返し後の最大静摩擦力は、湿度50%よりも湿度60%のほうが滑り出しが2.180 gf重いが、ほとんど考慮しなくてよいほどの差である。
G740TH横方向(X軸方向)湿度50%(暫定値)
最大静摩擦力
湿度60%(確定値)
最大静摩擦力
湿度60%-50%の
最大静摩擦力の差
①静止状態から動き始め95.520 gf93.845 gf-1.675 gf
②滑走中から切り返し後122.755 gf124.935 gf2.180 gf
①-②の差-27.235 gf-31.090 gf
表6:G740TH X軸の湿度50%(暫定値)と湿度60%(確定値)の初動と切り返し後の最大静摩擦力とその差

湿度50%と60%の縦方向(Y軸方向)の初動の違い

G740THの縦方向(Y軸方向)の最大静摩擦力は、湿度が変化すると最大静摩擦力も変化する。さらに、滑走中から切り返し後の最大静摩擦力は大きく変化する。

  • ①静止状態から動き始めは、湿度50%よりも湿度60%のほうが滑り出しが7.810 gf重い
  • ②滑走中から切り返し後は、湿度50%よりも湿度60%のほうが滑り出しが34.620 gf重い。この差は、熟考しなければいけない。
  • 湿度50%時、①静止状態から動き始めよりも②滑走中から切り返し後の最大静摩擦力の方が小さく、湿度60%時の場合と比べて関係性が逆転している。
G740TH縦方向(Y軸方向)湿度50%(暫定値)
最大静摩擦力
湿度60%(確定値)
最大静摩擦力
湿度60%-50%の
最大静摩擦力の差
①静止状態から動き始め92.900 gf100.710 gf7.810 gf
②滑走中から切り返し後86.520 gf121.140 gf34.620 gf
①-② の差6.380 gf-20.430 gf
表7:G740th Y軸の湿度50%(暫定値)と湿度60%(確定値)の初動と切り返し後の最大静摩擦力とその差
ゲーミングマウスパッドの評価について
ゲーミングマウスパッドの評価について

湿度50%と60%の横方向(X軸方向)の滑走速度と標準偏差の違い

G740THは湿度が変化しても加重平均動摩擦力にほとんど変化はないが、標準偏差は湿度50%の方が大きくなるため、湿度60%の時と比べてコントロール寄りのフィーリングに変化する。

G740TH横方向(X軸方向)湿度50%(暫定値)湿度60%(確定値)湿度60%-50%の差
④加重平均動摩擦力28.040 gf27.041 gf-0.999 gf
標準偏差1.8211.516
表8:G740TH X軸の湿度50%(暫定値)と湿度60%(確定値)の加重平均動摩擦力とその差

湿度50%と60%の縦方向(Y軸方向)の滑走速度と標準偏差の違い

G740THは湿度が変化しても加重平均動摩擦力にほとんど変化はないが、標準偏差は湿度50%の方が小さくなるため、湿度60%の時と比べてバランス寄りのフィーリングに変化する。

G740TH縦方向(Y軸方向)湿度50%(暫定値)湿度60%(確定値)湿度60%-50%の差
④加重平均動摩擦力29.779 gf29.863 gf0.084 gf
標準偏差1.9242.253
表9:G740TH Y軸の湿度50%(暫定値)と湿度60%(確定値)の加重平均動摩擦力とその差

類似マウスパッドとの比較

G740THと比較する対象に、材質や厚み、最大静摩擦力の数値などの点で類似しているG640sとCorsair MM350 championを選んだ。

G640sとの比較

画像19:G740THとG640sの表面組織の比較

G640s(湿度60%)と比較してG740TH(湿度60%)は

  • 表面硬度はほぼ同じ。
  • ベース硬度はG740THのほうが若干硬い。
  • G640sの硬度のばらつきは表面側はA評価、ベース側はS評価なのに対しG740THは表面側はDランク、ベース側はEランクで平滑性に欠ける。
  • 静止状態から動き始めの初動(最大静摩擦力)は、横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)共に僅かに軽い。
  • 滑走中から切り返し後の初動(最大静摩擦力)は、横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)共に重たくなる。
  • 滑走速度(平均動摩擦力)は、横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)共に重たい。

MM350 championとの比較

画像20:G740THとMM350 championの表面組織の比較

MM350 champion(湿度60%)と比較してG740TH(湿度60%)は

  • 表面硬度とベース硬度はG740THのほうが若干硬い。
  • 硬度のばらつきはG740THとMM350 championとで変わらず、表面側はDランク、ベース側はEランクで平滑性に欠ける。
  • 静止状態から動き始めの初動(最大静摩擦力)は、ほぼ変わらない。
  • 滑走中から切り返し後の初動(最大静摩擦力)は、複合的に大きく異なる。
  • 滑走速度(平均動摩擦力)は、横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)共に軽い。
  • 表面組織は、G740THのほうが撚糸同士の遊間が詰まっているように見える。

対センサー相性

Q
測定条件と掲載センサー

測定条件

  • グラフ xSum(m/s)-Time
  • 移動量 1inch
  • 最大速度 300mm/min
  • 加速度 200mm/s^2
  • DPI 800
  • PollingRate 1000Hz

掲載センサー

  • PMW 3360 (BenQ ZOWIE ZA13-C)
  • PAW 3370 (Endgame Gear XM2we)
  • PMW 3389 (ZYGEN NP-01)
  • PAW 3395 (Pwnage StormBreaker)
  • HERO 25K (Logicool G PRO X SL)
  • Focus + (Razer Viper Ultimate)
  • Focus Pro 30K (Razer Viper V2 Pro)
  • Finalsensor (Finalmouse Starlight-12)

2023年9月時点の現行マウスセンサー8種類で相性テストを行った結果、特に不良は確認されなかった。

PixArt社製

画像21:PMW 3360 (BenQ ZOWIE ZA13-C)
画像22:PAW 3370 (Endgame Gear XM2we)
画像23:PMW 3389 (ZYGEN NP-01)
画像24:PAW 3395 (Pwnage StormBreaker)

独自開発/提携

画像25:HERO 25K (Logicool G PRO X SL)
画像26:Focus + (Razer Viper Ultimate)
画像27:Focus Pro 30K (Razer Viper V2 Pro)
画像28:Finalsensor (Finalmouse Starlight Pro TenZ)

使用感

ここからは筆者の主観とこれまでのデータを織り交ぜながら、G740THの使用感を書いていく。なお使用マウスはG Pro X SuperlightにESPTIGER マウスソール Arc2 G Pro X Superlight用を組み合わせたものと、すべてノーマルのWAIZOWL OGM PRO FEATHERである。

画像29:G740THハンプ引き
画像30:G740THハンプアップ

まず筆者のG740THの最初の個体は、ハンプ(凸部)の存在がはっきりと分かる不良個体であった。強い光を当てれば影がくっきりと浮き出て、指で撫でればしっかりとその存在が分かる。このレビューは、正常な個体でレビューをするために、改めてG740THをもう一枚用意して評価しているのでご安心いただきたい。

G740THは厚さ5mm(実測値4.54mm)で反発弾性を充分に感じる厚みがあり、表面硬度は54で硬すぎず柔らかすぎないバランスで調整されている。エイム操作時に鉛直方向に強く荷重をかけてしまう人でも、マウスにかかる余分な力を分厚い中間層のクッションで横方向に逃がすことができるのでマウスの位置がずれることはないだろう。マウスを押し下げることで追加の摩擦と乗り越え抵抗を得ることは一応可能だが、大きく期待できるほどではない。

ぬるっとした初動でキレの良さはない。硬度にばらつきがあるデータを示したとおり、マウスを摺動させると表面に不規則な凹凸を感じるため、安定したエイム操作をすることは難しい。

湿度50%と60%時において、縦方向(Y軸方向)の初動(最大静摩擦力)の変化が生じる点以外は湿度による滑り性の変化を受けにくいマウスパッドという性質を示しているので、湿度50%時の確定値で再度検証する必要がある。実際に湿度を変えて使ってみたが、筆者のフィーリングでは確かに湿度による滑りの変化を受けにくいように感じた。

横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)共通して、静止状態からの初動が軽く、切り返し後の初動のほうが重くなり、滑走速度にほとんど差がない分かりやすいパターンなので慣れるのに時間はかからないマウスパッドだった。しかし慣れた後でも、先述した不快な操作感とマウスの移動方向に追従して位置がずれるので、筆者はこのマウスパッドは好きにはなれない。

G740THは時間経過と共にスティックスリップが徐々に解放されていく典型的なパターンを示しているので、扱いに慣れるまで簡単な部類に入るが、マウスの切り返し操作にもたつきを嫌い、エイムのキレを求める人には向いていない。つまり、トラッキングエイムが主となるゲームタイトルをプレイしている人には向いていないと考える。

G740THのスティックスリップの存在と、その扱いに慣れるまで簡単なパターンは、VALORANTやCS2のようなプリエイム・フリックエイムが主となるゲームタイトルをプレイする人にとって、精密なエイムをアシストすることが期待できるので、そちらのほうが合っているのではないかと思う。

総合評価

このレビューを読んで、あなたがFPSゲームなどにおいて絶対的な勝利を目指すならこのG740THは買うべきではない。

G740THは、勝利に強く拘らず、Logicoolという世界一のゲーミングデバイスメーカーのブランド名を冠したゲーミングマウスパッドが、ゲーミンググレードや競技シーンに求められる最低限の性能を満たしていなくてもそれで良くて、他社のゲーミングマウスパッドよりも安い価格で、いつでもどこでもほしいときに同じ消耗品を買えるポイントがとても合理的だと感じるような人に向いている。

マウスの移動方向に追従する脆弱なベースの滑り止め、マウスパッド全体的に発生している著しい硬度のばらつき、光や触覚ではっきりと分かるハンプの存在。設計品質通りに製造されているか、メーカー自身が確認しているかすら怪しい。

ただ、個人的にはたとえ新品でも自分自身が購入した製品は、手にした時点で製造品質の確認をしなければいけない大切さを教えてくれたマウスパッドであるので、非常に感謝している。

Logicool

G740TH

販売価格 3,800円~

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