【コラム】ペプシマンの持ち方ラボ 定期連載第三回
[寄稿者:PepsiMan_ax]
こんにちは。
早いもので第三回となりました。
「持ち方・ラボ エピソード3/シスの復讐」のお時間です。
最近雪国へ行く機会があり、人生初の雪かきを行ったのですが、腰・首・肩に深刻なダメージを負い、2日ほど稼働不能状態に陥りました。
ゲーマーは出不精になりがちですので、身体を動かすことも重要ですが、過ぎたるは及ばざるが如し。
皆さまもお気をつけくださいませ。
今回は、前回、前々回とハリの話が続きましたので、少し趣向を変えまして感覚のお話。
「チルエイム」についてdeepにdigしていきます。


言葉の本質とその変化
いつの間にか定着していた言葉というものは、どの時代にも存在します。
ゲーミングギア業界においても
- デッドゾーン
- アクチュエーションポイント
などは、本当にいつの間にか定着し、幅広く用いられるようになりました。
現代人にとって言葉とは、普遍的に存在しているものです。
学校で新しい言葉を学ぶ際も、これはこういう意味、としか教えらないことが多いでしょう。
しかし、その概念が蔓延してしまうのも考えものだと、私は思います。
人々の多くが、成り立ちや用法に興味を示さなくなれば、言葉の持つ奥深さや本来の意味を失い、形骸化してしまうおそれがあるのです。
本来の意味を失い、新たな意味にすり替わったものの中に、「大喜利」という言葉があります。
大喜利は「大切り」とも書き、元々は、その日の芝居の最後の幕のことを指していました。
それがいつしか、司会者がお題を出し、演者が巧妙にボケた回答を出すという形式の演目を指す言葉に。
たとえそれが最初の演目であっても、あの形式であれば大喜利と呼ばれるようになりました。
大喜利はまだ害がない意味に転じましたが、「琴線に触れる」などは悪い意味に捉えられる機会が増えているように感じます。
故に、正しい意味で使っているにも関わらず、反感を買ってしまうという事態も。
※琴線に触れる=素晴らしいものに触れ、感銘を受けること。
時代に応じて言葉の意味が変遷することは、シューティングゲーム業界にも言えること。
その変遷が特に顕著だと感じるのが「チルエイム」です。
チルエイムとはなんぞ
一度は口にしたことがあるであろうチルエイム。
しかしその実態は謎に包まれています。
チルエイムというフレーズが広く浸透し始めたのは、おそらく2023年ごろ。
現在FENNELで活動されているGON選手がこの言葉を頻繁に使用したことに始まり、同時期にクリップハイライトが話題となったaleksandar氏、VCT champion Los Angelesで復活を見せたLess選手らがそれに該当したことで、一気に浸透・定着へとこぎつけました。
この浸透期とされる2023年と、現在の2025年では、チルエイムの意味合いが少し変わっているように思います。
浸透期では、少なくとも全体の視点移動が落ち着いている状態のことを指していました。
しかし現在は、なんとなくそれっぽければチルエイムと呼称され、浸透期ではチルエイムと呼ばれなかったであろうプレイヤーも、そのカテゴリーに入れられている例を目にします。
実際にあったものですとsuygetsu選手。
彼は終始チルしておらず、接敵時にも独特なクロスヘアの揺れが発生しているのに、横軸維持の綺麗さの一点のみでチルエイムにカテゴライズされている現場を目撃しました。
このように、意味の変質のみならず、定義の曖昧さによる誤用すら発生しており、論争の火種となりかねない事例も発生しつつあります。
ですので、少なくとも私の使う範囲では、しっかりと定義決めを行い、前提を明確化して行きます。
プロから紐解くチルエイム
定義決めを行うにあたって、まずは該当するプレイヤーを解析しないことには始まりません。
ここでは、大多数がチルエイムと認識しているプレイヤーをピックアップして解析します。
一人目は、先述のaleksandar氏。
彼のエイムはいわゆる”横軸ビタビタ系“であり、非常にエイムのブレが少なく、常に最短距離を移動するような性質を有しています。
また接敵時のクロスヘアプレイスメントも完璧であり「敵がクロスヘアに吸い込まれる」という表現が最も似合うプレイヤーです。
彼がチルエイムと呼ばれる所以は、先述のブレの少なさにあると考えています。
ひとつひとつの動きに芯があり、移動にひとつの淀みもなく、目的を持った操作しか存在しない。
常に落ち着いているように見える要因はこれです。
二人目に、Shopify Rebellion sarah選手。
GC(女性部門)世界大会二連覇、GCチームで初めて北アメリカのchallengers league swiss stageに進出するなど、枠組みを超えて活躍するプレイヤー。
そんな彼女のエイムは、初弾精度の高さが特徴的。
「一発で仕留める」という意識の具現化であるかのように、複数の敵を捕捉しても、最小限の弾数で薙ぎ倒して行きます。
彼女がチルエイムと呼ばれる所以は、撃ち出しのタイミングにあると考えています。
近年のVALORANTシーンでは、素早い撃ち出しを活かし、早い段階で胴体に弾を当てながら頭も狙う、というエイム方式が台頭しつつあります(BuZz選手やLeo選手が顕著)。
しかしsarah選手は対照的に、一発目を頭に当てやすいタイミングまで待つ、という方式。
つまり、同じく安定感を得やすい方式であっても、撃ち出しタイミングが全く異なります。
彼女は真の意味で落ち着いている(チルしている)と言えるでしょう。
三人目に、Team Vitality Less選手。
彼のエイムの特徴は、彼にしかないと言って良いほど特殊。
平時の視点移動は、前者二人とはかけ離れた、とてもゆとりを感じる性質。
エイム時にもそれは変わらず、反応速度からくる撃ち出しの速さこそあれど、視点はゆらゆらと揺れる場面すらあり、ビタビタとは似ても似つかぬものです。
彼がチルエイムと呼ばれる所以は、平時の視点移動速度にあると考えています。
先述の通り、彼の視点移動は非常にゆったりとした速度であり、切り返し時に発生するインターバルもまた長く、全体的にカクカクとした印象。
切り返し撃ちにも独特のリズムが刻まれており、チルと言うよりも、マイペースと表現した方が適切だと思うほどです。
以上チルエイムの代表格である三人を解析して行きましたが、これらのプレイヤーには、共通点よりも相違点の方が多いことが見て取れるかと思います。
特に、Less選手とsarah選手を同じ括りとして扱うことは、個人的には不可解です。
では、一体何がチルエイムなのでしょうか?
チルエイム、いずこへ
一行は正体を求めアマゾンの奥地へ…とは行かず、実際に立ち入るのは自分の脳内。
既にどうにかなりそうですが、もう少し考えてみることにします。
プレイヤーを列挙していて気づいたのですが、
- 全体的な視点移動速度が一貫している
- 接敵時に自分のタイミングで撃ち合っている
- どこを切り取ってもブレが少ない
- ヘッドショットを決める瞬間が観戦視点からでも視認しやすい
- 敵を倒すまでクロスヘアが敵を捕捉し続けている
以上の条件のうち、一つでも当てはまる項目があれば、チルエイムと定義できる土俵に立ててしまいます。
この当たり判定の大きさこそが、浸透した最大の理由でしょうが、大きすぎるのも考えもの。
したがって、大きすぎず小さすぎない条件を考えねばなりません。
ここで目をつけたのが客観性。
元来、chillというスラングは状態を表す形容詞。
つまり、どんな質かを重視するよりも、どのような状態が発生しているかを重んじるべき。
もっと言えば、当人が発生させている事実を、客観的に見て判断すべきなのです。
さて、タイトル回収、持ち方解析に入ります。
ここまでに紹介したプレイヤー、それ以外のプレイヤーも含めての話になりますが、彼ら・彼女らには一つの共通点が存在します。
それが、ストッピング時の挙動。
ここでのストッピングは、マウス操作の止め動作のことを指します。
チルエイマーたちは、一貫してマウス本体を止める形でストッピングを行っています。
そもそも、ストッピングには二種類の形態が存在します。
一つが、マウスパッドにマウスを押し付け、スポンジの沈み込みを利用して動きを制止させるタイプ。
もう一つが、マウスパッドの表面摩擦を利用し、腕の動き自体を止めてマウスを制止させるタイプ。
チルエイマーたちは、ほとんどが後者。
また、その方式を活かすためか、はたまたその方式にせざるを得ないからか定かではありませんが、マウスを持ったときの形のまま操作しています。
ときたまクリック時に指の関節を逆方向に曲げる方がいらっしゃいますが、それすらもなく、一切形が崩れません。
つまり構造として強い持ち方を用い、その構造を崩さないストッピング形式を行うことで、特有のエイムの一貫性が発現しているわけです。
では整理していきましょう。
まず持ち方・動かし方の観点から欠かせない要素が
という点。
それに加えて、感覚の観点から
という点をピックアップし、上記二点を満たしたプレイヤーを、ペプシマン的チルエイマーと定義することにします。
なお、今後判別しやすいように、持ち方・動かし方から導き出したものを「定義①」、感覚から導き出したものを「定義②」呼称します。
実演
では定義が決まったところで、疑惑となっていたプレイヤーを審議していきましょう。
まずはsuygetsu選手。
定義①を考えてみると、確かにマウスパッドの表面摩擦を利用した操作も行っていますが、中間層の柔らかいマウスパッドを多く使用している点、そして構造としてそこまで強くない持ち方をしている(していた)点より、当てはまるとは言えません。
※2025年はつまみ持ちからつかみ持ちに変わっているため、現在の持ち方の構造の強度は不明。
定義②を考えてみると、平時の視点移動にはあまり一貫性がなく、緩急のついた素早い視点がまず目につきます。
切り返し時などは余裕を感じますが、近年はリコイルに頼るといった場面も多かったため、全体的に見れば少し慌ただしく感じる割合が多かったです。
以上より、定義に則していない項目が多いため、suygetsu選手はチルエイムではないと結論づけられます。
もう一人ピックアップするならgyen選手。
彼も巷ではチルエイマーと呼称されています。
定義①を考えると、持ち方は構造として安定していますし、脱力しながら操作し、スピードやバランスタイプのマウスパッドを好む以上、腕自体の動きを止めるストッピングが採用されていることは明白です。
持ち方などの詳しいことについてはこちら
定義②を考えると、接敵時のエイム速度がかなり一定に近く、その一定さと撃ち出しタイミングの相乗効果で、かなりゆとりを持っているように見えます。
以上より、定義に則している項目が多いため、gyen選手はチルエイマーであると結論づけられます。
おわりに
感覚の言語化もさることながら、人々が何となしに使っている概念を纏めあげることは、途方もない苦労が伴うものですね。
有り体に言って、本当にどうにかなってしまいそうでした。
ただ、日に15分程度であれば丁度よい頭の運動になりますので、皆様もぜひ日課にしてみてください。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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2004年生まれ、関西出身。18歳ごろから、マウスの持ち方を考察した動画をYouTubeに投稿している。